1.運命的な出会いを果たした二人…あなたは彼を拾いました。場所は?
そろそろ風もぬるみ出す、春も間近いとある朝ぼらけ。雨の狭間だ それっと大急ぎで洗った、2日分の洗濯物を庭先の物干しへと干し出しながら。ささやかながら季節折々、何かしら植わっている家庭菜園の、今はキヌサヤの緑が伸び始めているのを横目に眺めておったれば。
「?」
その緑の隙間にちらちらと、別な色合いが覗いていると気がついた。外側の畝の間に何か、いや、誰かが倒れているのが見えた。畑の部分は、空気を混ぜ込むべく柔らかいせいか。その身のうつ伏せた側がやや埋まり込んでいる態は、ギャグまんがなぞでの落ちて来たものが地面へめり込んだよな表現を思わせたけれど。それを笑えるような余裕は、残念ながら その折のわたしにはどこにもなかった。だって、行き倒れた人なんて初めて見たし、この風貌には見覚えも。……いや、舞台版はWEBでしか観てないから、実写だとどうかを知ってるワケじゃあありませぬが。それでも、すらりと細身で…金髪にこの真っ赤な衣装とくりゃあ、ねぇ? あ・でも、ホントに本人なのかなぁ。それに、
“柵を越えて入って来たってことになるよね。”
柵といっても登れないような高さの仰々しい塀じゃなし。小柄な小学生でもない限り、乗り越えるのは難しいことではないけれど。それでも…子供じゃあないなら、それが他人の家への不法侵入にあたることくらいは判るだろうに。
“でも、泥棒ってのとも思えないしなぁ。”
何と言っても見た目が派手だ。冬場だからモノトーンが主流とは限らない昨今だけれど、真っ赤なロングコートは自己主張が激しすぎる。金色の真っ黄っきな頭もまた、今時にはめずらしくもないけれど。質の細い、柔らかそうな髪は、染めたものには見えなくて。もしかしたらば地毛かなぁ? ってことはやっぱり、キュウゾウさんなんだろか。それにしても、
“顔を真下に伏せて倒れてるなんて…苦しくないのかなぁ?”
あまりに動かないお人なんで、警戒するより案じて差し上げた方がいいんでないかいと、さすがに心配になって来たもんだから。
「あの。」
「…。」
「……あの〜。」
声を掛けても身動きはなし。昏倒している様子で、だったら助け起こすべきかなぁ? 畑に顔を埋めてしまい、息が止まってしまいました…が死因じゃあ、いくら何でも気の毒だし。そうと思って肩へと手を掛けてみたけれど。
2.彼は人間じゃない! あなたが見てしまった、決定的な証拠…それは何?
「重っ!」
何でどうして、こんな細いのにこの尋常じゃあない重さは何ごとですか? 筋肉質の人は見た目より重いなんて言いますが、寝てたり意識がないと重くなるとも言いますが、そんなどころじゃないぞ。その薄い肩を引いて仰向けたいだけだってのに、じりとも動かんとは。携帯電話が、なのに ひょいと持ち上げられないくらいの違和感だぞ。ともすりゃわたしより細いのに、この人まさか…中身は純金か? ステイ・ゴールド、いつまでもピュアでいてってのを地でいってるのか?(こらこら) 地べたへ埋まってるのもその重さのせいじゃないのかな、誰か呼ばないと無理かしら。家人を呼ぼうとしかかれば、
「……。」
「あ。」
いきなり ひくりと動いた気配。そして、身を起こしたいのか、体の横手へ投げ出していた腕を肩のあたりに引き上げて。そこへ手を突き、起きようとしかかった…筈が、
3.寝ぼけているのか、彼が機械っぽい動きをしてます。どんな?
しゅしゅしゅ…っと、かすかに奇妙な音がして。見ている前でのあっと言う間に、その身が幾回りも小さく縮んだ。細身じゃああったけど、若いったって高校生以上ではあろうくらいの身の丈だったものが。見る見る内に 小さく小さく小さくなって。縮尺的にだけ小さくなったんじゃあなく、お顔も手足も丸みを帯びてゆき。むくりと身を起こした末の姿は、ちょこりと小さな、保育園の年少さんくらいという幼さへ。そして、そんな現象の最後に聞こえたのは、
【 省エネモード、変換完了】
……そうですか、そういうモードチェンジが出来る身ですか。それって、生身の存在に出来ることじゃあありませんよね? とゆことは、あなた機械の体なのですね。
4.目覚めた彼は、一言…
こうまで傍らにいるのに反応薄く。得体が知れないとはいえ、子供となったお姿は何とも愛らしかったので。恐る恐るに手を延べ、肩へと置けば。まだ覚醒しきってないのか、半眼のまんま、こちらを向いて…
「…起きて、みゅたくなった」
ああそうですか。わたしゃ危険じゃあないからと断じて、省エネモードでお相手くださる訳ですね。何が起きるかとドキドキしたのに まったくもう。ちょっと脱力しましたよ。舌っ足らずなところが可愛いですね。肩へと置いた手の甲へ、首をかしげるようにして、ふわふかな頬、すりすりしてくれたのがあんまり可愛いので。O型の伝家の宝刀、ま・いっかを繰り出して、さぁさ立っちだよと促した。
5.とりあえず、彼になにを食べさせようか
家訓というのは大仰ながら、ぜんそく持ちやらアトピーやらがいる家なので。生き物となまものは無闇に拾って来ないことというのが、我が家の不文律になっている…のだけれど。
「機械仕掛けなようだから。」
昔の話ながら、父がダイニングの椅子とかカラーボックスとか、拾って来たことあるもんだから。それと大差無いじゃん、問題ないでしょと家へと上げて。ちんまりした身には大きすぎの、ごそごそのコートもどきだけというのは、何とも不具合ありまくりだったので。姫のお古で悪いけど、Tシャツとスキニーパンツとフリースのパーカーと、丈の合うのを適当に着せてから、さて。省エネモードとやらになったのは、もしかしたらば燃料切れのせいかもしれぬ。とはいえ、
「何を補給すればいいのかな?」
ガソリンや灯油をという匂いはしない。電池かな? 太陽発電? まだ朝早かったから、充電が足りてないとか? 襟元直してやってると、表情の薄いお顔がふと、何かに気づいたという反応をする。柔らかそうな小鼻ですんすんと、辺りの匂いを嗅いで見せるから。ああそうか、それでいいのかな。機械仕掛けでもド○えもんはドラ焼きを食べるしねぇ。やってみるだけやってみようかと、小さな手を引き、キッチンへ。朝の残りで悪いけど、ご飯を温め、おにぎりにして。玉子はオムレツ、あ、ブリ大根とゴボウのしぐれ煮も見っけ。野菜は食べれる? どれか嫌いでも何かは食せようと、ちょこちょこずつを並べ、大人用の椅子によいちょと腰掛けさせれば、
「…。」
いただきますということか、小さなお手々を合わせて見せて。でもお箸の使い方は忘れたか、おにぎりのみならずオムレツへまで、ヘレン○ラーばりに素手でいこうとしかかったのには…さすがにビビった。こらこら殿中でござるとストップかけて。先の丸い、キャラつきフォークを握らせてやる。両手利き? フォークも2つ要りますか? あ、そういやあの刀は持ってなかったね。持って来られてても困ったろうけど、なくてもいいのかな? あ、まだ熱いよ。ふうふうしなきゃ。そう。美味しい? そりゃあよかったvv
6.あなたの行為、彼は喜んでくれた?
手づかみはともかく、食べ散らかしはしない行儀のよさでお食事は進み。どれもこれもを均等に平らげたので好き嫌いもないらしい。最後に小さなお口を冷ましておいたお茶で潤すと、
「ごちしょしゃま。」
再び小さな手を合わせるのが何とも可愛いvv 伏し目がちになると睫毛が長くてだろ、白い頬の縁に淡い陰が落ちる。そこへとふわり、綿毛みたいな金の髪が軽くかぶさって、お人形さんのような愛らしさ。ああでも、凛々しい青年Ver.の方ももっと見てみたかったけれど。
7.彼は、あなたに恩返しがしたいようです
椅子から降りるとこちらの手を引く。じ〜っと見上げる眼差しが何とも無垢で。…あ、そんな設問なワケですか。思ってたことを見透かされたかと思いましたがな。いきなり鉄面皮なお兄さんへ戻られても、接しようが判らなくて困るだろから、そのままでいいんだよ? ホントにね。さぁさ、子供は遊べ。おもちゃは…あんまり置いてはないけど。アニメのビデオでも観る? えええっ? いやあの、竹刀やフェンシングの剣があるのは使う人がいるからじゃあなくてだな。ちゃんばらの手合わせはご勘弁を〜〜〜。
8.彼との生活、いいところ悪いところ
仔キュウVer.だからか、まだ取っ付きやすい方で助かっておりますが、これがあの、生え抜きの侍であり、強い侍にしか関心がない久蔵さんだったなら、取り付く島がなくて困っただろうなと思う。どう接したらいいんでしょうね、その場合。あ、それを訊いてるバトンでしたか?(本末転倒…) おもちゃでは遊ばないの? じゃあ…今日は暖かそうだから、お散歩に行こうか?
9.やっぱり彼は人間じゃない、って思う部分
10.彼とお出かけ。どこへ?
姫の小さいころのスニーカーも取ってあって助かった。それをはいての、さあ お散歩お散歩vv 跳躍力が凄いのは判ったから、だからいきなり道沿いのブロック塀の上へ飛び上がらないように。(笑) 寵猫抄のシチさんは、こんな感覚になったんだろうなと今頃実感しつつ、ご近所を一回りしてみることにする。新興の分譲住宅のある方へと行きゃあ、同じくらいのお子様がたもいて賑やかだったりするのだけれど。道を隔ててこっち側は、お年寄り世帯が多いのか、あんまりお勤めの人も出入りをしない、静かな静かなお屋敷町で。そこをほてほて歩いていると……。
1.運命的な出会いを果たした二人…あなたは彼を拾いました。場所は?
「…っ。」
塀の上をとてちて歩んでた誰かさん。何を見つけたか、今の自分の背丈の2倍はあろう高さから、ぴょいっと飛び降り。短い歩幅でたかたかと、危なっかしい歩きようでそのまま駆けてく。おいおいどうしたと後を追えば、
「………嘘でしょ。」
これに入って見つかるのは、シチさんの方ではなかったか。カバーなのだろ前面が、素通しになってるカプセルベッドといいますか、そんなものがあるのもまずは“なんで?”というよな代物が、不燃ゴミ・大型ゴミ収集ステーションとされてる月極め駐車場前に横たえるように放置されていて。しかもその中にいたのが、
「…しゅまだ。」
駆け寄ったそのまま、風防カバーを小さな掌でぴたぴたと叩くキュウさんなので…ああああ、やっぱり。深色の蓬髪に白い砂防服の、ちょっぴり恐持てな…精悍なお顔を苦悩させたままで寝てるよな、厳しい面構えをした壮年様。とんだ白雪姫と王子様の出会いのようじゃあ〜りませんか。(う〜ん) 歩道の上だけど、このまま座り込んでもいいですか。これって勝手にいじってもいいのかな。誰の姿もない通りだけれど、家の中から誰ぞが見ているやも知れません。つか、誰だ捨てたのはっ! 勿体ないことをして…じゃあなくて。今日は収集日じゃないぞっ。(それも違います、もーりんさん。)
2.彼は人間じゃない! あなたが見てしまった、決定的な証拠…それは何?
こんなものに入ってるところや、放置されてるところが、人間じゃあないことを既に物語ってはいませんか。生身でこんな扱いされてるなら、殺人とか保護責任遺棄とかいう立派な犯罪だぞ。それに、人間じゃあないらしいと判明しているキュウさんが、お仲間だと言わんばかりな“個体識別”してくれてますし。これだけで決めつけては乱暴すぎますかね。
「しゅまだ。」
ああ、はいはい。そんなぺちぺち叩かない。これってどうやって開けるの? つか、あなたとは味方なの? 出した途端にお兄さんVer.へ戻って“しゅまだ、殺す”は勘弁だぞ?
3.寝ぼけているのか、彼が機械っぽい動きをしてます。どんな?
すぐ外でのごちゃごちゃがさすがに届いたか。風防カバーの向こうにいる人が、ゆっくりと目を開けました。濃い鳶色の、何とも言えぬ印象的な瞳です。それで開錠される仕組みだったらしく、ぷしゅーっという真空状態が解除されるような音とともに、風防カバーが浮き上がり、蓋がゆっくりと開いてゆきます。街角のファンタジー、平日の粗大ごみ置き場でのイリュージョン。…どうでもいいですが、もちっと巻いてくれませんか。時間かかってしまうのは、安全を期すためでしょうか。落ち着きある存在感と、その身へ秘めし暗渠の存在を常に忘れぬ、陰のある横顔と。こんな間近でお逢い出来ようとは! ご無事であってほしいのは山々ですが、誰か来たらどう言い訳すりゃあいいのと、いろんなドキドキに翻弄され中です。だっていうのに、まあまあなんて落ち着き払っているんだ、あんたってばさ。“o(><)o"
4.目覚めた彼は、一言…
「そこなご婦人。警戒なさるのも無理はないが、儂は怪しいものではない。」
……勘兵衛様、にっこりと微笑ってくださったのは嬉しいんですが、怪しい人ほどそう言うもんですぜ? 第一、そのずるずるした格好でここを歩き回ってたら、誰が見たって怪しい人です。せめてここが北野とか元町界隈ならいざ知らず、中東方面かインド系にしか見えぬそのお姿は、はっきり言って浮きまくりです。こうまですぱすぱとまくし立てた訳じゃあありませんが、呑気に問答している場合じゃありませんと、それでと逼迫していただけの話だってのにもうもう。どうしてくれようかと言葉を探しておったれば、
「しゅまだ。」
ポッドの中で上体だけを起こした態勢の彼へ、向こう側から仔キュウさんが声をかけた。ちんまり幼い風貌に、今時のいで立ちという服装の彼だったけれど、
「…久蔵か?」
ほんのわずかに戸惑ってから、それでもすぐさま誰かを言い当てた勘兵衛様。ほんのわずかな間合い、何かしら考えを巡らせていたのだろ、沈黙状態になられて。そして、
「すまぬが、しばしの間、お主のところへ身を寄せさせてはもらえぬか。」
よろこんでっ!(こらこらこら)
5.とりあえず、彼になにを食べさせようか
お散歩をはやばやと切り上げて、家へと戻ってのさて。やっぱりなまものじゃあないんだよ、だから拾って来たって文句はあるまいと、お家へ上げての、でも今度は父より背丈のあるお人、そうそうお着替えというのがなかったので。恰好はそのままでいてもらい、部屋は…散らかったままなのでとダイニングの椅子を勧めて、お茶を出し、
「何か召し上がりますか?」
「ああ、気を遣わな……。」
…いでくれと言いたかったらしいのだけれど。お客があれば、ほれ食えやれ食えが、我が家の妙なモットーなので。既にジャーの蓋を開けてのご飯をよそい、電子レンジへ向かって。さあその間に、今度は何を付け合わせましょか。大人の勘兵衛様だから、オムレツよりも玉子とじ? ああそうだ、さっきのしぐれ煮がまだあった。おお、久蔵さんも手伝ってくれるかね。じゃあ、この箱からちんと音がしたら呼んでくださいな。お顔を見合わせタッグを組んでの共同作業。
「………。」
こちらのそんな様子へと眸を細められ、それ以上は何も言わぬまま。即席親子のドタバタを、微笑ましげに眺めてらした。
6.あなたの行為、彼は喜んでくれた?
先程の誰かさんと違い、こちら様はさすがきちんとした箸使いで、変則 和定食をきれいに平らげて下さって。殊に、久蔵さんが頑張って渋皮むいてくれたタマネギの千切りを冷水でさらし、缶詰のまぐろフレークを汁ごとかけて染ませて出来上がりという“付きだし”は、作った人が人だったからか、いかにも微笑ましそうなお顔で箸をつけておいでだった。…作った本人が、横合いから じぃっと見ていたせいもあろうが。(笑)
7.彼は、あなたに恩返しがしたいようです
つか、何でまたあんな状態でおいでだったのでしょうかと。訊いてみたけど、
「…さて。」
どうしてだろうかとそっちからも訊きたそうな、そりゃあ朗らかな笑みで返された。ううう、ずっこい。//////// 久蔵さんが仔キュウモードになったのも、そこいらの真相を口外しないためだったのかも? その、挑戦者だか好敵手だかも、今は仔モードなもんだから。リビングへ移ってソファー…は慣れないらしく、大きいお座布団をささどうぞと用意した上へ座られた壮年殿のお膝へと。当然顔で よいちょと上がっての何か言いたげ。お願いだから、決着をとか言い出さないでね。
8.彼との生活、いいところ悪いところ
同じ空間にいられるのが、嬉しいんだけれど苦しいところとか? 勘兵衛様にしても久蔵さんにしても、素敵すぎて好き過ぎて、眸が眩むし落ち着けない。一緒になってお話進めるポジションよりも、もちょっと離れたところから眺めるのが一番なんだろなと思われます。ああ脇役体質…。
9.やっぱり彼は人間じゃない、って思う部分
ねえねえと小さな仔キュウが懐ろ揺さぶれば、んん?と小首を傾げて視線を合わせ、幼いお顔を見やってあげて。すると、呼んだくせに何を含羞むものなのか、むむうと真っ赤になってしまい、胸元、砂防服の重なりへ、柔らかな頬を埋めるおチビさん……vv 相も変わらず、猛獣使いっぷりがおサスガです。戦場のシチさんも結構なやんちゃだったでしょうに、同じよに誑(たぶらか)し…もとえ、手なずけたのでしょうか?と思わせます。
………あ、これは別に“人間じゃない”な話じゃありませんな。
真人間じゃないかもという話になってました。(こらこら)
10.彼とお出かけ。どこへ?
特にご所望がありそうでもないので。ああそうですね、迷子の心得じゃありませんが、あまりうろちょろしない方がいいお立場なのでしょう…と。平日のうららかな午前をぼんやりとやり過ごすことにします。
“…それにしても。”
やっぱり気になるのが、生身ではなさそうな身のお二人だってこと。いやさ、生身であっても十分に…色んなところで人間離れしてんでしょうに、そこへ輪をかけてどうしますかと。(笑) すると、何とも済まなさそうに眉を下げてしまわれた勘兵衛様、
「実は、あまり そこのところの記憶や知識は残されてはいないのだが。」
何ででしょうね。作った人がそこまで傲慢だったのでしょか。ここまで感情というか自律性を持たせておいて、なのに自身のことを教えて置かないなんて、それはひどいと思いますが。
「そうでもなかろう。」
はい?
「生身のお主らだとて、
何のために何になろう何をしようというのは、自らで決めたり探すのではないか?」
…はい。
「それと変わらぬ。
明らかに人造の、機械の身だが、
自我に近い機能をつけたからこそ、使命や何や敢えて搭載せなんだのかもしれん。」
ははぁ。何だか奥が深い会話になって来たぞと思いきや、
11.ここで重大な告白…彼(ら)の寿命は、あと***しか残っていない!
「とはいえ、この身の上の儂も久蔵も、寿命だけは決まっておる。」
「はい?」
「平均消耗度というのから割り出された、順当な使用期限がの、決まっておるのだ。」
え? それって?
「だから、放り出されておったのだ。それがどうしてこの次元へまで滑り込んだかは判らぬが。」
………そんな。
「そんな顔は しなさんな。」
消費期限を過ぎた食品は危険だろうが。それと変わらぬ。いつ破綻を帰たすか、いつ不調を示して誤作動を起こすか。そうなってからでは取り返しの付かぬことに成りかねぬと、危険な遊具の強度試験のようなものをし、それで割り出された存命期間だ。
12.彼(ら)が出ていきました
「そんなこと、そんなしれって顔で言い出さないでくださいよぉ。」
何が辛いって、出逢ったことを後悔するよな別れが一番辛い。好きな人なほど そんな別れは悲しくて辛い。そりゃあ、ずっと一緒に入られないかもしれないとは思ってましたが、寿命が…なんて次元でのお別れのお話なんて、したくはなかったですってば。おろおろとしているのが伝わったものか、お膝猫を決め込んでいた仔キュウさんが、わざわざ降りて来てこちらの傍らまで寄って来てくれました。真ん前までと近づいて、
「???」
おでことおでこをこっつんこ。ああそんなにも間際まで寄られると、何か恥ずかしいじゃないですか。///////// こんなに温かいのにね。機械仕立てだから、悲しまなくてもいいのだよってですか? でも、愛着のある電化製品だったら壊れてしまうと悲しいし、小さいものならもう動かなくても取っときますよ? いや、そうじゃあなくって。寿命が決められてるのって、何か違うんじゃないんですかと。
【 でもねぇ、そのお姿でもう数百年はさまよっておられたお人ですからねぇ。】
はい? 今のお声は…誰のが何処から?
13.彼(ら)が最後に残していってくれたもの…それは
【 随分と遠出をなさってましたねぇ、勘兵衛様。】
「おお、七郎次か。」
いつの間にやら、テーブルの上へ妙なものが載ってます。テレビのリモコンのような、でも二本足がついてて歩いてますし、腕のようなものも付いてて、いわゆる身振り手振り付きで喋ってます。
【 選りにも選ってそうまで遠い次空へまで滑り込んでおいでとは思いませなんだ。】
まったくもうと溜息混じりのお声が言って。
【 見失わぬよう、管制ベースから動けぬ私に代わり、
久蔵殿がそりゃあ頑張って下さった。
次界跳躍はあまり連続して手掛けちゃあいかんのですが、
一刻も早ようと延々と探し歩いて下さって。】
仔キュウ化すると記憶も封がされるのか、何のお話?と、ご本人は小首を傾げているばかりだが、
【 生命維持装置から出てしまうと、普通に年を取ってしまうのですよ?
我々が次空から次空へという一足飛びな探し方をしても追いつけぬうち、
そんな風にお外へ出てしまわれてはいないかと、それをどれほど案じておりましたか。】
………………はい? それってどゆこと? 年をとるって?
「…済まぬな。ああいう言い方をすれば、
挨拶もなく姿くらましても痛みは少ないかと思うたのだ。」
先程のケースの中では時も止まっておったようなものだったのだが、目が覚めてしまってはもはやそれまで。こんな風にすぐさま見つけてもらえればいいが、そうでないなら長居も出来ぬ。寄る辺ないまま果てるだけだからで、何も言えぬまま出てゆくこと指して、出来れば勝手な奴だと思ってほしい。あんの鋼の侍めと。腹が立つだけ、ああこんなことは早く忘れようと、そう構えてくれぬかと。親切を受けたが、返すものが無さ過ぎるので…と。眉を下げての目元もたわめ、面目ないと微笑う人。あああ、それってもしかしてっ!
「…っていうか、じゃあ勘兵衛様は機械の身体じゃあ…。」
「あのポッドに入っていた間は、人とは呼べぬ“時”の過ごしようをしておったが。」
それってずるい。…いや、まあね。そうだとも違うとも仰せじゃあなかったんで、嘘つきとは言えませんが。
「? もーりん?」
小首を傾げてる久蔵殿は? 生身の体での次界通過追跡は難しいので、こちらさんは機巧躯へ意識を移植しての、ここへとおいでなんですね。じゃあじゃああのポッドの元へと戻らねば。あれに乗らないと、勘兵衛様は移動出来ないのでしょう? でも、いくら見つけたってっても、ちゃんと此処から元いたところへナビゲート出来るんですか?
【 おや、我らの技術をお疑いか?】
だ、だってさ。何かシチさんから凄まれてませんか? わたし。びくくぅっと肩をすくめたのを、勘兵衛様に笑われた。口許へと拳を寄せられて、くつくつとひとしきり愉快がってから、
「大丈夫。シチの腕は北軍一だったし、久蔵の意識によるマーキングもされておるからの。」
案じなさるなと言って下さり、そこへと重ねて、
「しゅまだ、見ちゅけた。」
そりゃあ楽しそうに、幼い口調で久蔵さんが付け足して。鈴を転がすような声でころころと、本人の印象からはずんと掛け離れた屈託のなさ目一杯に、あははふふふと笑い転げてくれたのだった。
――― ああよかったねvv
…っていう記憶を、セオリーなら消しておかなきゃいかんのではありませんか? 勘兵衛様。
それとも、これが置き土産?
◇ ◇ ◇
14.バトンを渡す相手とキャラ指定をどうぞ
皆様お忙しそうですので、アンカーで。
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